カンボジアプログラム プティサストラ大学学長のインタビュー

投稿日:2016年1月15日

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1.なぜカンボジアで歯科医師をしているのでしょうか?

カンボジア歯科医師1980年、私はタイの難民キャンプでの医療活動に従事していました。1990年クメールルージュで優秀な人たちを失ったカンボジアに、アメリカのNGOを通じて歯科医療を取り戻してほしいと私に依頼がありました。

数年カンボジアに滞在した後、一旦は海外に出ました。海外にいましたが、私は毎年カンボジアに訪れ、歯科医療の環境の整備やプロジェクトへの参加、そして自ら教鞭に立って支援をしていました。

ちょうどこの時期UHSにて小児歯科を教えていましたが、8年前、NZでの仕事を辞め、カンボジアでフルタイムにて働くことを決意。6年間IUでの歯学部長をし、2年前にUPへ移りました。教鞭をふるいながら2016年1月1日付けにて歯学部長へ就任しました。大学の他にも、パートタイムでプライベートクリニックにて小児歯科医、One2Oneというボランティア団体の運営もしております。

2.カンボジア歯科医療の現状を教えて下さい

一歯科医師として、カンボジアは世界の中でみても最もむし歯の多い国です。例えば、6歳児の平均本数は9本、日本ではおそらく1-2本でしょう。15歳では平均して4本以上のむし歯があり、大人の歯も虫歯の為、抜歯せざるを得ない事が多いです。

これについては、田舎に住む人々には歯科医師の不在または金銭的余裕がない家庭が多いからです。

これらの問題と向き合う為に保健省や大学などと一緒に治療を行い、カンボジアの人たちに現代の歯科治療を届ける、また通えるように環境を整えました。

政府に従事する歯科医師は国内の病院で勤務を行うのですが、ほとんどの歯科医師がプライベートクリニックで働いております。また、そのほとんどがプノンペンに集中しています。これは皆都市で働くことを好み、あまり地方での従事には興味がない為です。また、カンボジアではコンポンチュナン州に政府が運営するデンタルナースの学校があります。
3年間で歯科の一般的な知識を学んだのち、抜歯、スケーリング、麻酔の方法、簡単な治療はART(AIT?)などを学びます。

カンボジアには100年も前から正式な歯科医師免許を持たず、歯科の治療方法を親などから独自に学ぶという事が続いていました。これはいくつか問題があり、歯科治療の低さ、感染に対する知識がなくほとんどの病院ではオートクレーブがない状態でした。そこで政府は取り締まりを強化しました。

カンボジアの歯科医療基準はゆっくりではあるがよくなりつつあります。現在5つの大学が歯学部を構えています、それらは国立大、ミリタリー系の大学、そして私立大学です。海外に比べまだ能力で劣る部分はあります、それは都市部しか大学がなく、歯学部は授業料が高いので支払い能力の問題が生じます。

講師達の質もあがってきていると思います。ただ、カンボジアにはスペシャリストと呼ばれる医師の数が非常に少なく、政府公認の海外留学奨学金制度がないため学生達はタイや韓国、日本の大学独自の奨学金制度を利用しております。よって海外留学経験者がスペシャリストとなっています。

臨床の内容によってはスペシャリストがいない場合もあります。例えば顎顔面口腔外科では腫瘍を持つ患者さんに対して病理学など1500万人の人口でも数えるほどの歯科医師しか対応できません。幸いなことにクメールソヴィエットフレンドシップ病院では手術を行える施設が整い、IUがこの分野のコースを教えている。現在5名歯科医師が顎顔面口腔外科のトレーニングを受けています。現状はまだまだ歯科医師が足りていない状況である。日本からは岩田雅裕先生が定期的に訪れ彼らに教えています。

現在、海外留学で博士号を修了した若い歯科医師がカンボジアへ戻り講義を行っています。新たにデンリッシュとのプロジェクトは経験豊富な技術の高い日本人歯科医師達による講義や歯科医院での直接指導は大学にとっては大変意義のあるプロジェクトだと思い、期待しています。また、彼らが来てもらえる事で治療費を支払うことができない人々への助けになると共に、学生達が必要な治療実習を行う事ができます。

3.カンボジア歯科医療の課題を教えて下さい

現在カンボジアが抱えている問題として経済的理由で治療に通えないという問題があります。国立の病院でも少額で最低限の治療を受けることができ、NGO自身が持つ歯科医院や移動歯科治療車を用いての無料検診も行っています。孤児院、HIV、刑務所などでも歯科治療が行われています。

デンタルナースは基本的な事を習ったのち歯科医師がいない僻地へ行き、簡単な治療を行っています。子供の歯科事情は大変悪くこれからは助産婦などとも協力をして彼らにも治療の大切を教えるようにしています。例えばフッ素塗布を徹底するなどもそのひとつです。フッ素塗布の浸透はプノンペンの様な大きな街でも学校のプログラムを通じて虫歯予防に必要な活動です。

フィリピン発祥の“フィットフォースクール”というブラッシング指導のプログラムが広まっており、手洗いなどの推進もおこなわれています。また、コルゲートなども独自のブラッシング指導プログラムも行われています。

4.カンボジア歯科医療の未来は?

未来のカンボジアの歯科医療に対して、プノンペン市内でもベーシックな治療だけを行う歯科医院から最先端技術を取り入れた歯科医院が増えてきているので、患者は欧米、日本で受けられる同じぐらいのレベルの治療が受けられるようになっています。

また、海外から歯科医院がプノンペンに進出し彼らは非常に技術の高い治療を提供しています。高度な歯科治療を望むハイクラスの人々にも対応が出来ます。

また、デンタルツーリズムが増え国によってはかれらの国で受ける治療費よりも安価かつ技術もあるというメリットもあるので、カンボジアの歯科にとって大きな成長にもなると思います。

5.カンボジア歯科医師国家資格について教えて下さい

カンボジアでは7年間を勉強した後、歯科大で卒業試験を受け、研究や卒論などもパスし、保健省が行うテスト(筆記&臨床)をパスした後、歯科医師として登録が出来ます。来年10月の新学年からは6年生に変更する事も検討されています。

6.カンボジア歯科医療と世界水準を比べて

まだまだカンボジア歯科水準は世界水準に比べて低いですが少しずつ上がってきてはいます。学生は歯科大を卒業してもそのまま技術習得する為に海外へ習得しカンボジアへ戻っています。しかしながら教育水準はまだ他の国に比べ追いついていないのが現状です。

5年後には海外から戻ってきた歯科医師達がいい先生となって戻ってくると思います。またASEAN統合により他の国への治療の可能性が出てくるなかカンボジア歯科医師は更に技術を高めなければならないと思います。

7.カンボジアとNZとの比較

学校で習うこと自体、そう変わりはありませんが、論文などは非常に高度な内容の為学生達にも高い理解力が求められている。技術面ではカンボジアでは臨床を主に行う傾向があります例えばマイナーオーラルサージェリーでは学生は100歯の抜歯を行う必要があり、いくつかの外科手術も行います。

これらオーストリアやNZではあまり時間をかけて行う分野ではありません。UPでは4年から6年まではUPの歯科医院で臨床を重ねまた、本物の歯科医院の運営も勉強します。

8.カルム先生が考える日本人歯科医師と大学との関係

2016年に来て頂ける日本人歯科医師達に期待する事は彼らの知識を学生だけではなく、先生達にも教えて欲しい。

カンボジアで歯科医療を教えていくのは、大変なチャレンジになるかと思います。それは日本とは違い物が揃っていませんしまた言葉の問題もあります。ほとんどの学生は英語を話すことは出来るので英語でのコミュニケーションが重要になってきます。

カンボジア人の学生は日本人の学生に比べて先生との距離が非常に近く、日本人の学生の様に礼儀正しくはないところもあるので(いい意味でフレンドリー)、日本人歯科医師達は学生と気軽にディスカッションやコミュニケーションを楽しむことができます。

9.カルム先生から見るカンボジア人とは?

カンボジア人は礼儀正しく、フレンドリーである。ただ、何人かの学生達は日本人の様に勤勉ではないと言えます。しかし学生達は習得することが好きで特に臨床実習を好みます。海外からの講師が来てハンズオンなどを見る事に大変興味を持っています。

また、好奇心も旺盛です。ほとんどの学生はPCを使いこなし英語が出来るので日本とカンボジアが離れてはいますが、EmailやFacebookなども日本人歯科医師達との良いコミュニケーションツールになると思います。

10.若い世代へ期待することは?

クメールルージュでは34人のデンタルアシスタントが生き残り、彼らはベトナムの大学へ行きその後歯科医師になり、その後海外へ行きカンボジアの歯科医療に貢献しました。若い世代は教育環境も整い親が授業料を支払う事も出来る環境にいるので、海外へ出て行き更に技術を学びまたカンボジアの歯科大へ持ちかえってくることが出来ます。

毎年カンボジアの歯科大のレベルは良くなってきていると少しずつですが感じています。今回日本からの歯科医師達が来て行って頂けるプロジェクトもその一つと言えるでしょう。

11.カンボジアの歯科大生は卒業後どのような道へすすみますか?

ほとんどの学生達はプライベートクリニックへ勤務しますが、数パーセントの学生は政府関係の病院へ勤務する為テストを受けます。そして数はすくないですが海外へ出ていく学生もいます。カンボジア国内でも学生達が受けられるコースがあります、それは先ほどもお話しした岩田先生による口腔外科手術のコース、エンドドンティックコース、矯正歯科コースがあります。

今後カンボジアでスペシャリストのコースを実施することも可能ですし、また海外から戻ってきた歯科医師達が教えることもできます。ただ、現在のところ大学卒業後更に勉強するには日本、韓国、タイなどの大学との奨学金制度のある大学へ行かなければならないのが現状です。

12.カンボジアの歯科大生に一番人気のスペシャリストは?

今学生のなりたいスペシャリストNo.1は矯正歯科医です。カンボジアには一般歯科治療プラス矯正歯科の基本を学んだ歯科医師はいますが、これまでに奨学金制度でも海外で博士号を取得した学生はいません。現在、唯一欧州留学にて博士号を取得し経験のあるチェン先生がUHSにて教えており、人気のコースです。

13.最後に、カルム先生は今後カンボジア歯科医療とどの様に関わっていきたいですか?

私がこれからも出来ることは生徒達の為に教えていくことです、これは歯科医療を発展させる為です。

また、NGOを通じて今後共積極的ボランティアに参加したいと思います。2016年から国立小児病院にて毎週金曜日に口唇裂治療を行う予定です。

”SMILE Cambodia” という他のNGO団体の手術も請け負っています。

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